2017年1月20日金曜日

未成年者との淫行を理解するための7項目

 タレントの狩野英孝さんが17歳の高校生との淫行疑惑があるとの報道がありました。
http://news.yahoo.co.jp/pickup/6227702

 この報道に対して「女性は16歳で結婚できるんだから問題なくない?」とか「法律の矛盾点」との意見が多くみられます。

 そこで、法的にどうなっているのか解説します。

1 女性は16歳で結婚できる
【民法731条】 男は18歳に、女は16歳にならなければ、婚姻をすることができない

 婚姻は精神、肉体共にある程度の成熟をしなければ認めるべきではないとのことから、このように年齢を設けています。

<ある程度の成熟の基準は?>
 日本の法は大きく異なる趣旨の法律を複雑に取り入れて作られています。

 この内、この年齢の部分はフランスに大きな影響を受けており、当時のフランスでの医学的判断を参考にした年齢となっています。


<男性と女性の年齢差は何故?>
 外務省が公式見解を発表しています。
 要約すると【男性より女性の方が成熟が早いから】とのことです。

 勿論感覚的なものではなく、医学的に検討してだと思います。


2 未成年者の行為能力
【民法20条1項】 未成年者は制限行為能力者である。

 だいぶ条文を書き換えていますが、今回重要な部分はここだけなのでご了承ください。
 制限行為能力者とは聞き慣れない言葉ですよね?
 簡単に説明します。 


<制限行為能力者とは?>
 判断能力の欠如・未熟を理由に、単独で法律行為を有効に行うことが出来ない者のことを指します。

 未成年者の他に成年被後見人、被保佐人、被補助人があります。
 後者3種類は精神疾患等によって判断能力が欠如していたり、未熟だったりする成人です。

 難しく色々と言いましたが、要は、未成年は精神疾患等と同等に判断能力がまだ未熟だってことです。


<法律行為とは?>
 相手のいる約束事は全部法律行為だと思って問題ありません。

 コンビニの買い物、物の貸し借り、遊びに行く来る、婚約等々、全部法律行為の契約です。

 基本的にはこれらを一人では行えないってことです。

 ただし、コンビニとか文房具屋等、日常生活での契約行為は単独でも有効になる等の例外もあります。
 その詳細は今後、本編の民法でキチンとやりますので、今回は省略します。


3 結婚年齢と制限行為能力者
 婚姻可能な16歳は当然制限行為能力者です。
 つまり、単独で婚約(結婚する契約)や婚姻は行えません。

 必ず親の同意が必要です。
 この親の同意があって初めて、法律行為(婚約など)は、有効に決定すると定められています。


<精神成熟と判断能力>
「最初に16歳で精神的に成熟していると言ったのに、一方では制限行為能力者(=未熟)って変じゃない?」
と思うかもしれません。

 しかし、結婚する上での精神成熟と、法律行為を一人で成す判断能力の成熟とでは基準は違います。

 【法律行為を成す=責任を自分で取る】と言うことです。

 制限行為能力者として未成年者の行為を制限している理由は、
「未成年者の法律行為は有効ではない、だから何かトラブルがあっても責任を取らなくて良い!」と未成年者を守ることを目的にしているんです。

 未成年者に窮屈な思いをさせたいわけではないんですね。


 一方結婚は結婚=不具合ではありません。
 だから、「ある程度の成熟度で認めても良いでしょう」ってことです。

 この二つは趣旨・目的が違うんです。
 つまり、条文や数字だけ見て、趣旨や目的を見ないでいると矛盾と感じるんです。

 法律って難しいですね。


4 未成年者とのわいせつ行為
 青少年健全育成条例で禁止されています。

 この法律は未成年者が対象です。
 16歳でも婚姻している場合は未成年者ではなく成人なので、この条例の違反にはなりません。

 婚姻している者は成人となり、16歳で離婚しても成人のままとなります。


<条例で禁止している>
 条例なので、その趣旨・目的は各都道府県ごとに違います。
 「条例とは何か?」についてはこちらの【憲法とは?】に書いてあります。

 先程まで説明してきた通り、法律は条文だけでは判断できません。
 同じ条文や数字が使われていても、その趣旨・目的によって意味合いが違いましたよね。

 それが各都道府県ごとに違うので、これは一概には言えませんので悪しからず。


<わいせつ行為とは?>
 これも自治体(都道府県、市区町村)によって違うのですが、主に手淫、口淫、姦淫、性器を触り、触らせる行為です。

 つまり、手でする、口でする、性器でする、触る・触らせるってことですね。


<何故未成年者とのわいせつ行為が禁止されるのか?>
 【未成年者は未成熟だから】
 これが全てですね。

 先程も制限行為能力者の部分でも見ましたね?
 基本的に「未成年者は未熟な者として保護しましょう」って趣旨です。

 つまり、16歳での婚姻はこの条文の例外って感じですね。


 なお、16歳という未熟な者でも、婚姻しているってだけの理由で保護しないのは、婚姻して法的責任を負う状態にある者を条例でだけ特別に保護する必要はないためです。

 言い方は悪いかもしれませんが「法律で自分の行為に責任を持つと覚悟して結婚したなら、条例でも自分の行為には責任を持て」と言うことですね。


<成人男性側が罪に問われないケース>
 しかし、男性側も何でもかんでも100%罪に問われるわけでもありません。
 これが犯罪として成立するためには蓋然性(がいぜんせい)が必要です。

 蓋然性とは、事前にそう知っていたってことです。

 つまり、相手が未成年者だと知らなければ罪に問われません。

 だから相手が欺罔行為(騙し行為)を行い、成人男性側が「この女性は成人だ!」と勘違いしていた場合は成立しません。

 ただし、ただ普通に「私は成人です」と言っていただけでは「この女性は成人だ!」と思い込んでいたのかどうかの判断は難しいです。

 見た目が明らかに未成年者だった場合は、例え未成年者が「私は成人です」と言っても普通は信じませんし、疑います。

 そのため、騙す文言があった場合は、見た目や騙した行為の内容などを総合的に判断しないと何とも言えません。


5 結婚を前提の付き合いでもダメ?
 未成年者でも、親の同意さえあれば婚約(契約の一種)は可能です。
 この婚約をしている者同士のわいせつ行為はどうなんでしょうか?

 これは現在でも争いのある曖昧な部分です。

 多くの自治体では【真摯な交際関係は罰しない】とされているのですが、実際に結婚していない状態で真摯かどうかの判断が難しいんです。


<未成年女性が損害を受ける例>
 未成年女性側「この人と結婚したい!」と本気で思っていたとします。
一方の成人男性は「この女性と結婚したい!」と言葉にはしていますが、本心では体目的だった場合どうなるでしょうか?

 当然、騙されていた未成年の女性だけが酷く傷つき、被害を被る結果になりますよね?

 では、この未成年者を誰が守ってあげられるでしょうか?

 親ですか?
 いいえ、それは無理です。
 親も結婚するモノとして結婚に同意しているのですから、このケースでは事前に守ってあげることは出来ません。

 この男性の体目的なだけの本心を訴えたい場合、その本心の証明が出来なければ損害賠償・慰謝料請求も行えません。

 そこで成人男性側が「本当は体目的だけで、結婚なんてするつもりは一切ありませんでした。」と証言するならともかく、騙して未成年者とわいせつ行為をするような男性ですから、そんなことを言うはずがありませんよね。

 では、そのような可能性がある交際関係で誰がこの未成年女性を守りますか?

 「16歳以上で結婚する意思表示をしている男女間のわいせつ行為は不問とする」としてしまうと、誰もこの騙されている未成年女性を守れないんです。

 だからそこは、「本人の責任にするのではなく、法律で保護しましょう」ってなるのは仕方がない部分かもしれません。

 その方法として、嘘等を見抜く能力も成人よりは未熟であろう未成年者を守るために「未成年者とのわいせつ行為をそもそも禁止しますよ!」とするのは仕方がないと考えられています。


<このケースで16歳で婚姻した場合>
 男性側の本心が体目的だったとしても、実際に婚姻さえしてしまえば、結婚の意思があるもないも関係ありませんよね?

 既に結婚しているわけですから男性が結婚する意志が本当はないなんて状況は有り得ません。

 つまり、結婚の意思があっても実際に婚姻しているか、していないかは次元が違う雲泥の差だってことです。


<実際問題の話>
 そのため、未成年者の女性が結婚を意識していても、成人男性が逮捕されるケースが多いです。

 この犯罪は非親告罪、つまり、被害者が訴えなくても罪になるので、女性が「結婚しようとしているのに、逮捕しないで!」と言っても通用しません。

 だから本当に男性側も結婚しようとしていても逮捕されてしまうことがあるので、この部分は争われている部分です。

 しかし、もう一度言いますが、実際問題として逮捕されるケースが多い事実は事実として知っておくべきです。


 余談ですが、未成年者同士のわいせつ行為の場合は逮捕ではなく、双方が補導対象となります。


<自治体による違い例>
・ わいせつ行為をする、させるだけではなく、教えることも禁止している県がある。
(性教育が出来ないのでは?との批判もある)

・ みだらなわいせつ行為を禁止している県がある。

・ 売春のみを禁止している県がある。


6 条例に疑問を感じた時の行動
 これは行政法で詳しくやりますが、あえて載せます。

 条例はそこに住む住民の多くが要望したから出来上がっています。
 つまり、逆を返すと多くの住民が批判したり、適切に改正を求めれば改正されるんです。

 それを条例の制定改廃請求手続きと言います。
 その適切な手続き方法をお教えします。

<署名を集める>
 選挙権のある住民の50分の1以上の署名で改廃請求が行えます。

 選挙権が必要ですので、年齢には気を付けて下さい。
 選挙権がない人の署名は幾つあっても意味がありません。

 住民とは、その地域に3ヶ月以上居住している日本人です。
 外国人とか、他県の人の署名を何件集めても意味がありません。


<自治体の長に提出する>
 青少年健全育成条例は都道府県が制定しているのが普通なので、知事に直接提出します。
 直接請求と呼ばれる手続きなので、直接提出できます。

 知事は受け取ったら必ず議会に提出し、審議しなければなりません。
 これは義務です。


<議会>
 何故知事は議会に提出するのか?
 それは、議会が立法機関だからです。

 つまり、知事は条例を作ったり、変えたりは出来ません。
 それを行えるのは議会だけです。
 だから議会に提出するんです。

 そして、その条例を決める議会の議員はそこの住民が選挙で選んでいる人達です。
 だから、議員の作る条例に不満があるなら、選挙で選ばなければ良いだけです。

 だから、住民の意思によって条例は出来上がっているんです。


7 まとめ
◎ 法律は趣旨・目的の違いにより判断は変化する。
◎ そのため【16歳で結婚できること】だけを理由に何でもかんでも判断することは出来ない。
◎ 法は未成年者に危険な可能性がある場合は保護する方を選択する。
◎ 現在でも議論の余地はある

◎ 条例は都道府県、市区町村ごとに違う法である。
◎ それはそこの住民の意思で出来上がっている法である。

◎ 異論があるなら、住民皆で反論する必要がある。


 このようなことですね。
 少し難しい部分もあったかもしれませんが、未成年者とのわいせつ行為禁止に関してはこういったことです。


<後日の補足>
 その後様々な法律家・弁護士先生がこの事件についての解釈を載せています。

 それを読んで
「やっぱり合っているんですね!」
と思ったり、逆に
「お前の言っていること間違ってるじゃん!」
と感想を持った人がいると思います。

 実は法学的にはどちらの意見も間違っていないんです。
 何故か?
 それは法学だからです。

 その部分をもっと詳しく知りたい貴方は
【法学とは?】
を読んで下さい。

 もっと混乱してしまうかもしれませんが、「法学ってこんなに面白い学問なんだぁ!」と感じる人もいると思います。

<私の解釈の根拠>
 私の解釈は法律の趣旨・目的に沿った場合に視点を置いています。
 そのため、このような解釈になりました。

<反対の解釈の根拠>
 ここで紹介した弁護士先生は憲法の人権に視点を置いていると思います。


 視点が違うんですから、解釈内容が違って当然です。

 私に対しても、解釈の違う弁護士先生に対して、批判をする前に是非法学の特徴を知って下さい。

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